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−病気で不安になる仕組みの一端を発見−

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免疫活性化を起因とする不安・恐怖亢進メカニズムの解明
−病気で不安になる仕組みの一端を発見−

2018年1月

理化学研究所(理研)統合生命医科学研究センター粘膜免疫研究チームの
シドニア・ファガラサン チームリーダー、宮島倫生研究員、
章白浩特別研究員らの共同研究グループは、
マウスを用いて免疫活性化を起因とする不安・恐怖亢進メカニズムを明らかにしました。

私たちは病気になると不安になったり、恐怖を感じたりする場合もあります。
それには、どのようなメカニズムが働いているのでしょうか?

病気のときに私たちの体を守る免疫細胞には、
T細胞〔1〕、B細胞、樹状細胞などがあります。
なかでもT細胞は、活性化されると細胞内代謝を変化させて持続的に増殖します。

しかし、持続的なT細胞の活性化が細胞外の全身性のメタボローム〔2〕
(細胞や組織における低分子化学物質・代謝物質の総体)に
与える影響は分かっていませんでした。
また、免疫系と神経系の生理システムの相互作用についても多くの謎が残されています。

今回、理研を中心とする共同研究グループは、
慢性免疫活性化モデルである「PD-1〔3〕欠損マウス」を解析し、
活性化T細胞により血液中のメタボローム変化が起こることで
行動も変化することを明らかにしました。

具体的には、
@まず、全身のリンパ節でT細胞が活性化・増殖し、
活性化したT細胞ではアミノ酸トランスポーター〔4〕の発現が上昇、
トリプトファン〔5〕などの芳香族アミノ酸を細胞内に多量に取り込み、
その結果、血液中ではこれらのアミノ酸が減少します。
トリプトファンは、神経伝達物質のセロトニン〔6〕〔7〕の前駆体です。
A脳内では、前駆体アミノ酸が減少するのに伴い、
セロトニンが減少し、その結果、不安様行動が亢進し、
恐怖反応が増強します。

このように、免疫活性化に起因する前駆体アミノ酸の減少による
神経伝達物質の欠乏が不安様行動や恐怖反応の亢進を引き起こすという、
免疫系と神経系の生理システムの相互作用の一端が示されました。

精神疾患の中には、免疫活性化に伴うメタボローム変化に起因して
発症する場合があることが予想されます。
今後、実際の精神疾患の患者において、
免疫系の活性化、免疫系遺伝子の変異、
メタボローム変化を調べることで、
これまで不明だった発症原因の解明につながると期待できます。


参考文献:Metabolic shift induced by systemic T cell activation in PD-1-deficient mice perturbs brain monoamines and emotional behavior

〔1〕 T細胞:
免疫応答に関与するリンパ球の一種。前駆細胞が胸腺での選択を経て分化成熟することでできる細胞。
〔2〕 メタボローム:
メタボロームは、生体内の細胞や組織における低分子化学物質・代謝物質の総体を指す呼称。
遺伝子(gene)の総称をゲノム(genome)と呼ぶのになぞらえた代謝系全体を意味する造語であり、代謝物質の網羅的解析はメタボローム解析と呼ばれる。
〔3〕 PD-1:
T細胞活性化により誘導される、免疫反応を負に制御する抑制性共受容体。
PD-1遺伝子の欠損や抗体によるPD-1の中和は、T細胞の活性化や感染、腫瘍に対する免疫増強につながる。
〔4〕 トランスポーター:
物質の膜通過に関与する膜タンパク質。アミノ酸トランスポーターは、アミノ酸輸送を担う膜タンパク質のこと。
〔5〕 トリプトファン:
タンパク質を構成するアミノ酸の一種で、芳香族アミノ酸に分類される。
遺伝子(gene)の総称をゲノム(genome)と呼ぶのになぞらえた代謝系全体を意味する造語であり、代謝物質の網羅的解析はメタボローム解析と呼ばれる。
〔6〕 神経伝達物質:
シナプス(神経細胞間などに形成される神経活動に関わる接合部位)で情報伝達を介在する物質。セロトニンやドーパミンは代表的な神経伝達物質。
〔7〕 セロトニン:
モノアミン神経伝達物質の一種で、トリプトファンから脳内で合成される。気分、不安、攻撃性、恐怖といった多くの行動を制御する。

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