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  〜オレキシンによる新たな恐怖調節経路を発見、PTSD治療に光明〜

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過剰な恐怖を和らげるしくみ
  〜オレキシンによる新たな恐怖調節経路を発見、PTSD治療に光明〜

2017年12月

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)の
征矢晋吾助教、櫻井武教授らの研究グループは、
睡眠覚醒を制御する脳内物質オレキシンが、
心的外傷後ストレス障害(PTSD)などで見られる
「汎化」と呼ばれる現象においても重要な役割を果たしていることを発見しました。

オレキシンは、脳幹の青斑核という部分に存在する神経細胞群に働きかけ、
恐怖を感じるレベルを制御していることが明らかになりました。
この作用は、オレキシンがその受容体(OX1R)に
結合することによるものでした。
オレキシンの新たな機能が明らかになったという点でも、本研究成果はきわめて画期的です。

本研究成果はNature Communicationsオンライン版にて2017年11月20日に公開されました。

動物は恐怖を感じたとき、無意識のうちにそのときの環境、
周囲にあったもの、音、匂いなどをその恐怖と結び付けて記憶します。
そして、後に同じ状況に陥ったり、同じ感覚を感じたりすると恐怖を覚え、
行動や自律神経系に変化が現れます。

本来これは、危険を示唆する状況を避けて生存確率を高めるための
合目的的な反応なのですが、ときに反応が強く起こりすぎてしまうこともあります。

また、恐怖を感じたときに聞いた音、匂いなどの感覚、周囲の環境が、
正確に同じでなくても、似たものや関連するものである場合も
恐怖を惹起することがあります。

これは「汎化」と呼ばれる現象で、
多様な環境に柔軟に適応し生存していく上で不可欠な反応です。
しかしそれが適切なレベルを超えてしまうと、
恐怖を感じる必要がない状況や感覚に対しても恐怖を感じてしまい、
強いストレスにより精神的に大きな負担を感じたり
日常生活に支障をきたしたりします。
この状態の代表例が心的外傷後ストレス障害(PTSD)です。

汎化は、より柔軟に環境に対応して危険を回避する上で必要な機能ですが、
適切なレベルに制御されないと、過剰応答が起こってしまいます。

これまでの研究では、
汎化のレベルがどの物質によってどのように調節されているのか、
ほとんどわかっていませんでした。

恐怖や危険を感じる状況では、オレキシンニューロンが興奮することが知られています。
そこで本研究グループは、オレキシンに着目し、
特定の神経細胞を任意のタイミングで操作できる
遺伝子改変マウスを用いて研究を行ないました。

その結果、オレキシンが脳幹の青斑核という部位で
ノルアドレナリンを作り出す神経細胞群(NA ニューロン)を刺激し、
環境に対して感じる恐怖に関連した行動を調節していることを発見しました。

恐怖記憶は、脳の深部に存在する扁桃体という部位に記憶されています。
オレキシンによる刺激をうけた NA ニューロンは、扁桃体の外側部分に働きかけ、
あらかじめ成立していた恐怖記憶を汎化させ、恐怖の応答を強めることが明らかになりました。

オレキシンは、
その受容体(OX1R)と結合することにより、恐怖のレベルを調節していました。
つまり、オレキシンのOX1R への結合を妨げる物質(拮抗薬)を用いれば、
PTSD に見られるような過剰な恐怖反応やパニック発作を
抑制することができる可能性があります。

オレキシン受容体拮抗薬はすでに不眠症の治療薬として
実用化されていますが、今回発見された新たな効用については、
さらなる検討が必要です。

※ 汎化:
恐怖を感じたときに聞いた音、匂いなどの感覚、周囲の環境が、正確に同じでなくても、
似たものや関連するものである場合も恐怖を引き起こす現象。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)はその典型的な症状。

参考文献:Orexin modulates behavioral fear expression through the locus coeruleus

 


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